●歯周病は歯周組織が細菌感染によっておかされる病気
歯は、あごの骨(歯槽骨)に直接つながっているわけではありません。
歯槽骨は、歯の根っこ(歯根)がすっぽり納まるようにできていて、その中に歯は「埋まっている」のです。
歯と歯槽骨は、「歯根膜」というミクロの糸が密集したような膜によってつ ながっています( ページの図参照)。
歯槽骨の外側は、歯ぐき(歯肉)におおわれています。
歯肉は外に出ている 部分の歯にもおおいかぶさり、これも歯を支えています。
このように、歯を支えている歯槽骨、歯根膜、歯肉などのことを「歯周組織」といいます。
歯を支えている組織です。
歯と歯ぐきの間から歯周病菌が侵入して炎症を起こし、この歯周組織を壊し
てしまうのが歯周病という病気です。
歯を支える歯周組織がおかされてしまうのですから、病気が進めば歯がぐらぐらしてきて、最後には抜けてしまいます。とくに、歯の土台となっている歯槽骨が溶か(吸収)されてしまうことが、歯周病によって歯を失ういちばんの原因となります。
●歯周ポケットが深くなるほど重症に
歯周病の始まりは、歯と歯ぐきの隙間の細菌感染から始まります。
歯周病のない健康な歯ぐきでも、歯と歯ぐきの間には深さ1ミリくらいの隙間があります。
隙間とはいえとても狭い部分なので、ハミガキではなかなかきれいに磨ききれません。また、よく噛んで食事をすると歯の表面は食べ物によりこすれて細菌が取れるものですが、それも歯と歯ぐきの隙間の1ミリの内部までは届きません。
さらに、このような狭いところには空気(酸素)が届きにくく、歯周病菌のように酸素を嫌う細菌にとってはとても居心地のよい場所ということになります。
このように歯と歯ぐきの隙間はどうしても細菌が生息しやすい場所で、口腔衛生を意識してしっかりハミガキをしている人でも、なかなか十分に磨けないところなのです。
それでも免疫力が強く、唾液の量も多い若いころであれば、大事には至りません。
ところが年齢を重ねて 代以降になると、深さ1ミリだった隙間は細菌感染による炎症で2ミリ、3ミリと深くなっていきます。
このようにして深くなった歯と歯ぐきの隙間のことを「歯周ポケット」といいます。
歯周病の進行は、歯周ポケットの深さに比例しています。
隙間が深く大きくなればなるほど、細菌の勢力範囲は大きくなり、炎症も拡大していきます。
深くなった歯周ポケットは、自然に浅くなることはありません。
●歯肉炎から軽度歯周炎、そして重度歯周炎に
歯周病は、まず歯ぐきの炎症である「歯肉炎」から始まり、それが歯周組織の炎症「歯周炎」に進んでいきます。
歯周病は、この歯肉炎と歯周炎を総称した言葉です。
歯肉炎になると歯ぐきが赤くなりますが、痛みはありません。
ハブラシでこすると、少し血が出る程度です。
これは子どもたちにも起こります。
本人が気づかないうちに治ったり再発したりしていることもあります。
しかし、炎症が進んで歯周ポケットが深くなっていくと、歯ぐきの裏に隠れ
た部分の歯にもバイオフィルムや歯石が付着するようになります。
炎症は、歯周組織である歯根膜に及び、歯周炎と呼ばれる状態になります。
歯周炎になっても、虫歯のような痛みは現れません。
歯ぐきの腫れ、口臭、 ハミガキでの出血程度です。
このため放置されやすいのですが、やがて硬いものが噛みにくくなり、場合 により上下の歯が当たるだけで痛みが出るなど、俗にいう「歯が浮く」状態になると、いろいろな症状が出ます。
また、口臭なども気になってきます。
さらに進めば、歯が少しずつ動くようになります。
これは、炎症が歯槽骨に及んだ証拠です。
歯を支えている骨が溶け(吸収し) 始め、最後には歯を失うことになるのです。
●歯周病菌が近づくと、骨は感染されないように退行する
では、歯周病が進行すると、なぜ歯槽骨が溶けてしまうのでしょうか。
骨も体の一部ですから、いつも新陳代謝をしています。
新しい骨の細胞がつくられていく一方で、古い骨の細胞は溶け(吸収し)ていきます。
体には、骨をつくる仕組みとともに、骨を溶かす仕組みも備わっているのです。
健康であれば、そのバランスが保たれていて、骨の量が減ることはありません。ところが歯周病菌が歯槽骨に近づいてくると、体は骨細胞への感染を避けようとして、骨を溶かす仕組みのほうを活性化させてしまいます。
その結果、骨が溶けてしまうのです。
そのきっかけとなっているのが、私たちの体の免疫です。
●早期治療と口腔衛生で、歯周組織は再生する
血液中を泳いでいるマクロファージという免疫細胞は、歯周病菌の毒素を感じると、サイトカインと呼ばれる生理活性物質などを放出します。
骨がこれらの物質を感じると、骨を溶かす役割を持っている破骨細胞が活性化して骨を溶かしてしまうのです。
しかし、歯周病の治療をしっかり行うと歯周病菌は少なくなり、体の免疫力のほうが強くなってきます。
炎症は治まってくるのです。
そうなるとマクロファージは、今度は骨や結合組織を増殖させるような物質を出すようになります。
「もう敵は少なくなったから再生してもいいぞ」とい うわけです。
●歯周病になりやすい人、なりにくい人
歯周病によって歯ぐきが下がり、骨が溶け(吸収し)ていくのは、「体自身 の防衛反応」といえるでしょう。
そこに深く関わっているのが、マクロファージが出す生理活性物質です。
しかし、マクロファージがどのくらいの量の生理活性物質を出すかは個人差 があります。
ちょっとの歯周病菌でもたくさん出てしまう人もいれば、少量の人もいます。
たくさん出る人は、それだけ歯周組織の破壊も進みます。
それが歯周病になりやすい人、なりにくい人の体質的な違いにもなっているのです。
これは遺伝的に受け継ぐ体質で、最近は遺伝子検査によって歯周病になりやすいかなりにくいかがわかるようにもなっています。
●歯周病菌の主犯グループ、レッド・コンプレックス
口の中には何百種類もの細菌がいて、たった1ミリグラム(1000分の1グラム)の歯垢(プラーク)の中には1億もの細菌がひそんでいるといわれています。
しかし、そんな中でも虫歯や歯周病をつくる悪玉細菌の種類は限られています。
虫歯をつくる虫歯菌は、おもにミュータンス菌とラクトバチラス菌の2種類と紹介しました。では、歯周病菌はどうでしょう。
歯周病には虫歯以上にたくさんの種類の細菌が関わっていることが、以前からわかっていました。
その関係は複雑で、本当の悪玉がどの細菌なのか、よくわからなかったのです。
ところがこのところの目ざましい研究成果のすえ、ポルフィロモナス・ジン ジバリス(P菌)、タンネレラ・フォーサイセンシス(Tf菌)、トレポネーマ・デンティコーラ(Td菌)という、ややこしい名前の3種類がとくに悪玉であることが明らかになってきました。
この3種類の歯周病菌は「レッド・コンプレックス」と名付けられ、さらに その撃退方法についての研究が進められています。
レッド・コンプレックスの中でも最もタチの悪い菌がP菌です。
P菌はLPSと呼ばれる内毒素を持っていて、これに体が反応することで、糖尿病をはじめさまざまな疾患の危険が高くなるのです。