歯周病と糖尿病①

●重度歯周病の人は糖尿病が治らない?

 

歯周病と糖尿病の関係は、かなり前から知られていました。

 

糖尿病の患者さんには、なぜか歯周病が多いからです。

 

世界中の研究者が調査すると、糖尿病の人は歯周病になりやすいという傾向は明らかでした。

 

いまでは歯周病は糖尿病の合併症の一つに数えられています。

 

しかも、糖尿病の人が歯周病になりやすいだけではなく、歯周病が悪くなると糖尿病という全身疾患を起こしやすくなるというのです。

 

重度の歯周病をしっかり治療し、その後もきちんと口腔衛生を保つことによって、血糖値やヘモグロビンA1cなどの糖尿病数値が改善する患者さんが多いことも明らかになっています。

 

あるいは、重度の歯周病があると血糖値コントロール(糖尿病治療)がなか

なかうまくいかない、コントロールできていても合併症の危険が高まる、とい

う報告もあります。

 

糖尿病は寿命を縮める疾患と恐れられていますが、その危険が歯周病によっ

て高まるというのは、どうやら事実のようなのです。

 

歯周病は、どのようにして糖尿病を引き起こすのでしょうか。

 

●サイトカイン、TNF-αとは

 

歯周病がさまざまな全身疾患を引き起こすとき、体の中では「サイトカイン」が暗躍しています。

 

サイトカインというのは、白血球などが出すタンパク質です。

 

傷が治る、炎症を起こすといった白血球の働きは、サイトカインが促してい ることがわかっています。

 

またサイトカインには体内のガン細胞や病原菌をやっつける役割もありますし、体の正常な成長を助けたりもしています。

 

サイトカインはさまざまな生理活性を引き起こすので「生理活性物質」とも呼ばれています。

 

サイトカインは数百種類も発見されていますが、その中で歯周病と深く関わっているのが「TNF-α」と呼ばれるものです。

 

●サイトカインがインスリン抵抗性をつくる

 

重度歯周病の患者さんの血液を調べると、このTNF-αというタンパク質 がたくさん見つかります。

 

歯周病菌は、エンドトキシンという毒素を持っています。

 

菌が歯ぐきの奥に入り込むと、血液中のマクロファージがこの毒素に反応して、たくさんのTNF-αを血液中に放出します。

 

歯周病菌によって増えたTNF-αは、糖尿病のおおもとのトラブルになっている「インスリン抵抗性」という状態をつくっていきます。

 

●歯周病菌が糖尿病の下地をつくっていた

 

いま増えているII型糖尿病は、インスリンという血糖値を下げるホルモンが効かなくなって起こります。

 

インスリンが働かないので、いくらインスリンが出ても血糖値が下がらないのです。

 

これが「インスリン抵抗性」という状態です。

 

歯周病がひどくなってTNF-αが血液中に増えると、このインスリン抵抗性が起こってきます。

 

「肥満は糖尿病のもと」といわれますが、肥満も血液中にTNF-αを増やすことによってインスリン抵抗性を引き起こしていることがわかっています。

 

肥満と歯周病は、同じような仕組みで糖尿病を引き起こしていたのです。

 

では、血液中にTNF-αが増えると、なぜインスリンが働かなくなるのか。

 

次回はその点についてお話ししていきます。